QOLを重要視するからこそADLの改善を
まず、QOLとは
QOLは、日本語で言うと「生活の質」という意味になります。人間らしく満足感を持って生活できているかを評価するための概念です。まずはこの言葉が生まれた背景をみていきましょう。1970年代のアメリカでは、障害者の方を中心として「IL(Independent Living)運動」が展開されました。これは、身体障害などで失われた機能が回復する見込みがなくても自己実現や社会参加が可能だと訴える運動です。これはその後制定されたリハビリテーション法に大きな影響を与えることになり、これまでのリハビリの目標であったADL(日常生活動作)の向上ではなくQOL(生活の質)の向上が重視されるようになったのです。この変化は介護の世界にも影響を与え、介護の領域でもQOLの向上が優先されるべきだという考えが根付きました。そして現在でも、介護の世界においては頻繁に「QOLの向上」「QOLが高い」といった言葉が使われています。
どちらも大事
このようにADLよりもQOLのほうが重要であるという考えが主流ですが、だからといってADLを無視していいわけではありません。例えば、寝たきりの高齢者がいたとして、その方のADLは極めて低い状態ですが、本人が希望する介護を受けることによってQOLは向上します。しかし、寝たきりになっている原因が廃用症候群(生活不活発病)にあるのであれば、リハビリや介護活動を通してADLを向上させ、結果的にその高齢者の自立度を高めることができます。寝たきりの状態は変わらずに介護を受け続ける生活と、介護を受ける頻度が減って自分でやれることが多くなる生活、どちらのほうが実際のQOLは高いでしょうか。高齢者の多くは食事や排せつなどを、できるものなら自分だけでやりたいと思っているはずです。このように考えると、QOLの向上だけを意識するのではなく、ADLの向上も含めてリハビリや介護を提供することが重要であることが分かるはずです。QOLとADLは対立する概念ではなく、密接に関わるものであることを忘れないようにしましょう。
ADL向上のためには
ADLの改善は理学療法士や作業療法士、言語聴覚士によるリハビリや福祉用具の導入による機能補助によって行われます。また、病気によるADL低下に対しては薬物療法が効果的です。そしてなによりも大切なのは適度な運動やバランスのいい食事などの健康的な生活習慣です。また、介護施設で行われるレクリエーションもADL向上につながります。グループで行う集団レクリエーションやその人の趣味嗜好に合わせた個別レクリエーションなど手法は様々です。その人の特性を理解したうえで適切なレクリエーションを提供することでADLの向上につながります。